『脱原発の哲学』を読む
2011年3月に起こった福島第一原発事故というカタストロフィは、私たちの生とそれをとりまく環境、社会に膨大な被害をもたらした。その膨大な被害を踏まえて、原子力=核エネルギーというテクノロジーが持つ科学的、社会的、政治的な矛盾について哲学的な観点から考察したのが、私たち(佐藤嘉幸、田口卓臣)が共同で執筆した『脱原発の哲学』である。
本書では、『脱原発の哲学』が提示した様々なテーゼについて議論するために、まず著者二人の討論(『脱原発の哲学』をアップデートする論点を含む)を収録し、その後、慶応義塾大学と筑波大学で行われた二つの合評会での討論を収録した。二つの合評会では、いずれもコメンテーターと著者、フロアの間で長時間にわたる白熱した議論が展開されたが、本書にまとめる際に、時間の関係で当日展開できなかった幾つかの論点を書き足した。
合評会の詳細は次の通りである。
*『脱原発の哲学』合評会+小出裕章氏講演会
第一部 『脱原発の哲学』合評会
コメンテーター 西山雄二(首都大学東京)、渡名喜庸哲(慶応義塾大学)、岩田渉(元市民科学者国際会議)
第二部 小出裕章氏(元京都大学原子炉実験所)講演会「熊取六人組と批判的科学」
応答 佐藤嘉幸(筑波大学)、田口卓臣(宇都宮大学)
慶応義塾大学三田キャンパス、2016年11月11日
*『脱原発の哲学』合評会
コメンテーター 五十嵐泰正(筑波大学、元「安全・安心の柏産柏消」円卓会議事務局長)、早尾貴紀(東京経済大学、311全国受入協議会)、本間信和(筑波大学大学院、元SEALDs)
応答 佐藤嘉幸、田口卓臣
司会 木村周平(筑波大学)
筑波大学、2017年5月18日
本書の特徴は、大きく言って二つある。第一の特徴は、脱原発、脱被曝の実践に関わって来た、広い意味での「アクティヴィスト」との対話を試みたことにある。具体的には、既に約45年にわたって批判的科学者として反原発を主張してこられ、多くの反原発活動に寄り添って来られた小出裕章氏に、批判的科学者集団「熊取六人組」とは何であったのかをめぐる証言をお願いしたこと、また、福島第一原発事故というカタストロフィ直後から脱被曝のために努力されてきた岩田渉、早尾貴紀、五十嵐泰正氏、そして同じく原発事故直後から既存の政治に対するオルタナティヴを追求してこられた本間信和氏にコメントや証言をお願いしたことにある。また第二の特徴は、被曝影響をめぐって私たちと必ずしも同じ考えを共有しない五十嵐泰正氏と率直な対話ができたことにある。私たちは、とりわけ彼の柏における脱被曝活動や、原発避難を強いられた人々の故郷喪失をめぐる彼の主張から多くを学んだ部分があり、その点に彼に率直な感謝を申し上げる。このように、本書は多くの方々の協力によって成り立った書物である。また、同じ研究グループでの議論を通じてお互いの議論を磨いてきた西山雄二、渡名喜庸哲氏にも多大な協力をいただいた。
本書を通じて、脱原発と脱被曝をめぐる様々な論点を発見、議論していただければ、著者全員にとってこれほど幸いなことはない。読者が、本書を脱原発、脱被曝を考えるための理論的、実践的「道具箱」(フーコー)として活用されんことを、著者を代表して願っている。
(佐藤嘉幸)