翻訳

森元庸介、松井裕美(訳)、 石井朗(企画構成)
ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(著)

受苦の時間の再モンタージュ (歴史の眼)

ありな書房
2017年5月
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「強いられた(subi)」過去の受苦の時が、イメージの制作、しかし同時に読解をつうじて認識=再認(reconnaissance)のうちに救い出される──そのさまざまなありようを「再モンタージュ(remontage)」を鍵語として分析した著作。サミュエル・フラーが従軍中に撮影していたビルケナウ収容所の映像を論じる冒頭の一章が引き締まった筆致とともに読者を引き込む。つづく長大なハルーン・ファロッキ論は、既成イメージの再モンタージュを主たる方法としながら、世界とイメージの関係そのものを分析、提示して倦むことなかった異貌の作家について、(結果的には)日本語で読めるもっとも稠密なテクストになっているはずだ。スペイン内戦後に自身が送られたフランスの収容所の日常を撮影した写真家アグスティ・センテーリェスの作品に漲る勁さには、訳しながら打たれた。末尾のボルタンスキーとの対話は、隔たりと近しさをともに掬い取った再モンタージュの成果といえるか。

少なくとも内容の面では簡明な書物といってよく、行論などについてとくに加えるべきことはない。ただ、ときおりサブ・テーマのように差し挟まれる系譜の問題が示唆的である、と個人的に思う。

森元庸介

広報委員長:横山太郎
広報委員:江口正登、柿並良佑、利根川由奈、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2017年11月11日 発行