メルロ=ポンティ哲学者事典
生前、メルロ=ポンティは『著名な哲学者たち』(Philosophes célèbres)と題する哲学事典を編集し、マズノ(Mazenod)という出版社から1956年に出版した。原著をお持ちの方はご存知と思うが、大判で450頁以上の大著であり、東洋、古代ギリシアから始まり、ハイデガー、サルトルまで、各哲学者の肖像が見開き1頁分に大きく印刷されている、美術図鑑的な趣向もある事典である(長らく稀覯本であったが、2006年にリーヴル・ド・ポシュから多くの補遺をつけて『古代から20世紀までの哲学者たち 歴史と肖像』として再刊された)。メルロ=ポンティは序文や各時代の導入部分とさまざまな項目の執筆を担当しており、序文と導入部分は「どこにもあり、どこにもない」として論文集『シーニュ』に収められた。
総勢41名の「協力者」には、アルキエ、バシュラール、ブラヴァル、レーヴィットらの名前にまじって、若き日のドゥルーズ、ダミッシュ、スタロバンスキーといった人たちの名前が見える。ドゥルーズは「ベルクソン」を、スタロバンスキーは「モンテーニュ」を担当しているのだが、後に活躍する彼らを抜擢したセンスも本書の魅力であろう。
いわゆる事典的な記述というよりも、若い研究者も含めて各専門家が哲学者の理論的肖像を描き出そうとした記述が多く、単に事項を検索するための事典ではなく、「読み物」として成立している事典である。
原著の翻訳に加え、訳者らによる解説を付したほか、原著には含まれなかった現代哲学については、日本独自編集の執筆陣による別巻(2017年11月刊行予定)を作成し、古代から現代までを網羅する哲学者事典となっている。哲学史を幅広く理解する座右の書として、おすすめしたい。
(加國尚志)