キーワードで読む オペラ/音楽劇 研究ハンドブック
本書は2011年に早稲田大学のプロジェクト研究所として発足した「早稲田大学オペラ/音楽劇研究所」の活動成果である。オペラや、狭義のオペラ以外の音楽劇(オペレッタやミュージカルだけでなく、歌舞伎や浄瑠璃から宝塚歌劇、「浅草オペラ」まで含む)を学術的に考察する際の諸問題が、計82のキーワードによる項目ごとに解説されている。内容は、オペラ研究の歴史や方法論、主要なオペラ作曲家13人の生涯と作品、劇テクストとしてのオペラと上演テクストとしてのオペラそれぞれを構成する諸々の要素、誕生から現代に到るオペラの様式やジャンルの歴史的発展、西欧以外の文化圏(特に日本)におけるオペラの変容、と多岐にわたる。付録として各項目ごとの参考文献表も掲載している。
オペラは芸術としての異種混交性、すなわちその不純さゆえ、音楽学においても演劇学においても長らく周縁的な対象だった。「オペラ研究」の項目を執筆した丸本隆が述べるように、「オペラ研究は歴史が浅く、学術的なレベルでの取り組みが本格的にスタートするのは、ようやく20世紀後半のことである」(17頁)。その流れに連なりつつ、日本独自のオペラ研究の確立を目指して上記研究所は設立された。本書の29名の執筆者はその招聘研究員である。多方面の専門家が最新の研究成果を盛り込んだこの「ハンドブック」がオペラに知的な関心をもつ少しでも多くの読者を獲得することを、執筆者の一人として強く願う。
(新田孝行)