編著/共著
マンガ視覚文化論 見る、聞く、語る
水声社
2017年3月
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本書は、編者の二人の呼びかけによって行われた連続ワークショップ「マンガ、あるいは「見る」ことの近代」をもとにした論文集である。夏目房之介、伊藤剛ら、90年代以降のマンガ論を牽引してきた論者から、中田健太郎、三輪健太朗、野田謙介といった今度この分野をリードしていくであろう若手研究者までが集まり、現在のマンガ論の最高の水準がうかがえるものになっている。
このワークショップのタイトルや本書のタイトルから分かるように、出発点にはジョナサン・クレーリーらの視覚文化論の知見を意識しながら、マンガ体験のありようを問うという問題意識があったが、議論は早々にマンガの中の大きな要素である言葉や吹き出しなどの音声表象にも広がってゆき、副題にあるように、「見る」にとどまらず、マンガを「聞く」、マンガが「語る」ことのありようまでが論じられるようになっていった。
一方に客観的に解析可能な所与としての表現があり、他方に専ら社会学的に扱われるべき読者の受容の領域がある、といった形で表現論と受容論を切り分けてしまうのではなく、表現と受け手の主体との動的な関係の中で、揺らぎをはらみながら生起するマンガ体験を捉え、その歴史的な条件を問おうとする本書の議論は、マンガ論を次のステージへと進める大きな一歩と言えるだろう。
(宮本大人)