海賊史観からみた世界史の再構築 交易と情報流通の現在を問い直す
「大航海時代」から現在にいたる世界史のここ500年の問い直し。そして、メタファーとしての「海賊」の問い直し。
この2つの大掛かりなテーマを掲げた共同研究の成果として、本書は出版された。
814ページ・価格14,000円(税別)いうボリュームは、大掛かりという形容では足らず、破格と表すほかないが、それほどまでに、「世界史の再構築」と「海賊」史観は、広く、厚い射程を有しているとも言いうる。
現代における「海賊」行為としてのWinny事件やタンザニアのインフォーマル経済、あるいは、「世界史の再構築」としての1615年のサント・アントニオ号拿捕事件やグロティウスの『自由海論』。
多岐にわたる主題を扱った40本にのぼる本書の論文は、「海賊」という概念の射程を可能なかぎり広げ、考察している。
本書は、国際日本文化研究センター共同研究「21世紀10年代日本の軌道修正」(2013-2015年度)の成果報告論文集であり、また、一部は科学研究費補助金(基盤 A)平成25-27年度「海賊史観から交易を検討する:国際法と密貿易-海賊商品流通の学際的文明史的考察」の成果である。
ただ、繰り返すように、本書は、そうしたお行儀のよい成果報告論文集という枠組みには、とても収まりきらない破格の物質であり、それゆえにこそ、学術的な意味においてもまた「海賊」行為の顕現たらんとする意図を持っている。
(鈴木洋仁)