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京都市立芸術大学芸術資源研究センター企画展 「Sujin Memory Bank Project # 01デラシネ──根無しの記憶たち」関連シンポジウム アート/アーカイヴ/ヒストリー

報告:林田新

日時:2017年1月22日(日曜日)14:00~16:00
会場:柳原銀行記念資料館
主催:京都市立芸術大学芸術資源研究センター、柳原銀行記念資料館
登壇者:水島久光(東海大学)
    江上ゆか(兵庫県立美術館)
    林田 新(京都市立芸術大学芸術資源研究センター/京都造形芸術大学)
    髙橋耕平(美術家)

2017年1月22日、京都市下京区の柳原銀行記念資料館にて、シンポジウム「アート/アーカイヴ/ヒストリー」が開催された。このシンポジウムは、同館にて開催された展覧会「デラシネ──根無しの記憶たち」の関連企画として催されたものである。京都市立芸術大学芸術資源研究センターが主催し、筆者と高橋耕平(美術家)が企画した。本展では、同館所蔵の写真資料を取り上げ、一般的な資料館の展示の慣習ではなく、美術館におけるいわゆるアーカイヴァル・アートの手法を参照して展示を構成した。

柳原銀行記念資料館の建つ崇仁地域はかつて日本最大規模の同和地区であった。こうした崇仁地域に京都市立芸術大学が移転してくることが決まっており、地域の様子はやがて大きく変わっていくだろう。それゆえ、この崇仁という地において「記録/記憶」ついて考えることは、この地が根ざしている歴史とあいまって、重要な意味を持っている*1。それゆえ、この地においてアーカイヴについて思考することは、この地域の来し方行く末に思いを巡らせることであると同時に、アーカイヴという概念や実践の根幹について思考する可能性を秘めているのではないか。こうしたことが企画を進めていく中で筆者の関心の一つとしてあった。そのことを踏まえてシンポジウムでは、企画者の二人に加え、長年地域映像アーカイヴに携わってこられた東海大学の水島久光氏、阪神・淡路大震災に関連する展覧会などを企画して来られた兵庫県立美術館の江上ゆか氏をお迎えし、本展を導きの糸にアーカイヴについて多角的な議論が展開された。

*1 この地域と「記録/記憶」の関係については、以下を参照のこと。拙稿「崇仁という地でアーカイヴについて考えたこと ――展覧会「デラシネ――根無しの記憶たち」に寄せて」。

放談という形式で行われたこのシンポジウムを要約することは難しい。とはいえ、全体を通じて登壇者が共有していたのは、アーカイヴを過去の資料が堆積した静的な貯蔵庫とみなすのではなく、歴史がいま・ここにおいて生成する動的な場として捉えようとする態度である。歴史的事象についての実証的な資料群としてのアーカイヴではなく、過去の時間が現在に立ち現れてくるようなアナクロニスティックな生成の場としてのアーカイヴ。本展で展示したのは、家族アルバムをはじめとする私的な写真である。こうした写真は歴史的価値が見出し難いものとして死蔵されてきた。こうした写真を本展では、アルバムから引き剥がしもともとのコンテクストから切り離すことで、群れとして展示をおこなった。こうした展示構成に対して水島は、観客が写真のまとまりをまとまりとして体験し、そこにさまざまに解釈を積み重ねていくことで新たな認識フレームを生成していくような体験──それを水島氏は「アーカイヴ体験」と呼ぶ──が生じる可能性があることを指摘された。シンポジウムでは、他にもこうした体験の場としてのアーカイヴを具体的にいかにして構築することができるのか、それを実現するための適切な規模、あるいは、こうした観客の体験をいかにしてアーカイヴすることができるのかといった問題など、示唆に富む議論が展開された。(林田新)

広報委員長:横山太郎
広報委員:江口正登、柿並良佑、利根川由奈、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2017年7月29日 発行