翻訳
オネイログラフィア 夢、精神分析家、芸術家
書肆心水
2017年2月
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本書はロシアのラカン派精神分析家にして美術キュレーターであるヴィクトル・マージン氏によりこれまで書かれたテクストを「オネイログラフィア」(夢の/という記述)という主題のもとに集めたものであり、この日本語版がオリジナルである。第一部はソ連の雪どけ、停滞の時代に少・青年時代を過ごした著者自身が世界各地を旅行中に見た夢の、紀行・日記文的分析、第二部は狼男(ロシア人パンケーエフ)の症例他、フロイトのテクスト読解を通した精神分析の根本的特質の考究、第三部は主に1970年代終わりからソ連のレニングラード(現ペテルブルグ)で興った非公式芸術の一派、ネクロリアリズムに関する考察である。各テクストは学術的文体と芸術的文体の間を往き来しつつ互いに響き交わし、全体として著者がペテルブルグの「フロイトの夢美術館」を拠点として行なってきた活動の報告書となっている。特筆すべきは、ソ連非公式芸術と言えばもっぱらモスクワ・コンセプチュアリズムの文脈で語られてきた日本において、本書が初めてのレニングラード・ネクロリアリズムの本格的紹介となっている点であり、このソ連末期の時空間において発生した特異な視覚芸術運動の美学的意義を提示している。
(斉藤毅)