翻訳
アート・パワー
現代企画室
2017年2月
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本書は美術批評家ボリス・グロイスによるArt Power(The MIT Press, 2008)の全訳である。本書には1997年から2007年の間にグロイスが発表した15本の論考が収録されている。そこで論じられるのはアートと制度および政治の関係であり、キュレーティング、ミュージアム/アーカイヴ、アート・マーケット、アートとプロパガンダ、テロリズムとアートといった問題に焦点が当てられる。これらは言うまでもなく現在のアートにとって焦眉のテーマの数々であり、それらの制度や機能が今日のアートワールドにおいてどのように働き、変容しているかをグロイスは論じている。アートはプロパガンダでもあるということを積極的に認めるグロイスは、そうしたテーマにタブーを懼れず左右のイデオロギーを越えて切り込んでいく。本書の魅力は何よりもそこにある。そして、グロイスの批評の特徴である明晰で鋭い分析は、本書においても遺憾なく発揮されている。それは、回りくどく難解な美術批評に馴染んできた私たちに新鮮な驚きを与えてくれるだろう。簡明な文章によって今日のアートの現状を思いがけないところから照らし出す本書は、コンテンポラリー・アートの現在について知りたい読者にとって最善の見取り図となるにちがいない。
(石田圭子)