単著
タブッキをめぐる九つの断章
共和国
2016年12月
本書が上梓された2016年は、ウンベルト・エーコとレモ・チェゼラーニというイタリアを代表する知の巨人を相次いで亡くした年でもあった。こうしたイタリア文学の碩学たちと直接親交があり、彼らの仕事に向き合いながらイタリア文学の研究および翻訳の第一線をリードしてきた著者が、2012年に亡くなったイタリアの作家、アントニオ・タブッキを偲んで、過去に様々な媒体を通じて発表してきたタブッキに関する文章を纏めたのが本書である。イタリアにおけるペソア研究の第一人者であり、日本では『インド夜想曲』、『レクイエム』の著者として知られているタブッキの小説は、虚構と現実が交錯する作品が多く、一見、時間の秩序を無視しているかにみえるが、小説において虚構を構築するという行為自体が、「時間」や「記憶」の探求という主題に向き合うことであった。タブッキが自選短編集『時は老いをいそぐ』でサリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』 に倣い九つの短編を編んだように、著者はタブッキへのオマージュとして、文学論といっても限りなく散文詩に近い「断章」を九つ編んだ。作品論集の他、追悼文、短編「元気で」、1997年の対談を収録。
(野田茂恵)