編著/共著
想起する帝国 ナチス・ドイツ「記憶」の文化史
勉誠出版
2017年1月
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本書は、「集合的記憶」をキーワードに、ナチスの文化政策のありかたや、戦後のナチス表象の変化について論じたものである。
たとえばヒトラー一党が建築、言語、祝祭、ワーグナー音楽などを活用しつつ大衆操作を試みたことは有名だが、それは「アーリア人」にまつわる壮大な「過去」を想起させることで、ドイツ人に歪んだアイデンティティを植えつけんとするものであった。さらにナチスによる「過去」の想起は、古代絶滅動物の復元など、自然界にも及んだ。
またナチスは敗北したあと、みずから集合的記憶のなかに組みこまれていく。そしてヨーロッパ人の世代交代とともに、彼らにまつわる「思い出」も多様化した。彼らは文学や映画のなかで、あるときは犯罪者として、またあるときは感情をもった一介の人間として「想起」されるかと思えば、肉体をもった姿で蘇ったり、月面帝国から攻めてくるなどして、現代人の愚かさを風刺するのに役立てられることもある。
本書が重視するのは、想起のプロセスは、われわれの内面だけでなく、リアルな体験にも根差したものだ、という点である。過去をイメージすることと、過去を実体あるものとして「蘇らせる」ことの線引きが、実はそれほど簡単ではないことが、本書を読みすすめるにつれて明らかになってくるだろう。
(溝井裕一)