編著/共著
サミュエル・ベケットと批評の遠近法
未知谷
2016年11月
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本書は、詩、小説、演劇、ラジオ劇、映画、テレビ劇作品の創造を通して、生と死、光と闇、音と沈黙のはざまで文学を追及し続けたサミュエル・ベケットについての本格的なベケット論集である。フランスの批評家・哲学者の論考の翻訳、海外の著名なベケット研究者の論文の翻訳、そして日本の主要なベケット研究者の論文からなり、それらがテーマごとに6つの章に集成されている。
バタイユとブランショのベケット論、ベケットに言及したドゥルーズの『アンチ・オイディプス』からの抜粋は、20世紀フランス思想における<外の思考>とベケットの試みが深く呼応していたことを表している。また長年ベケット研究を牽引してきた著名な研究者と若い世代を代表する海外の研究者の論文は、未来へと継承されるべき重要な批評的視座や新たな研究の動向を示す。日本のベケット研究者の各論文は、これまでのベケット批評を参照しながらも独自の視点を打ち出しており、オリジナリティに富んだ刺激的なものとなっている。
本書で、時と場所をこえて、多様なテーマ(人間性の不在、戦争、イマージュ、欲望、セクシュアリティ、言語、音楽、カオス、声、亡霊、テクノロジーなど)についての論考が互いに呼応し、響きあうさまは豊穣なるシンフォニーのようだとも言えるだろう。
(対馬美千子)