統治性 フーコーをめぐる批判的な出会い
フーコーの「統治性」という概念はすでに日本の学術界にも紹介され、さまざまな議論が展開されてきた。コレージュ・ド・フランスでの講義録が刊行され、フーコー自身による統治性概念の位置付けと問題設定の全貌が明らかになるにつれて、統治性という言葉はフーコーの思想における鍵概念の一つとして注目されるに至った。だが、日本でのフーコー研究の文脈においてあまり注目されない側面として、英米圏における統治性研究の動向と展開が指摘できる。フーコーという知の巨人をめぐる研究は、イギリスや北米圏ではどのような学問領域のもとで取り組まれてきたのか。そこにおいて統治性概念は、どのような問題関心のもとで受けとめられ、どのような再解釈をなされてきたのか。
本書は政治学・国際関係論という英米圏での研究潮流が優位を占める学問領域におけるフーコー受容の系譜を概括することを通して、そこでのフーコーをめぐる知的な出会いが切り開いた研究領野を概観する。世界各国の大学で採用されている優れたテクストであると同時に、本書の随所に垣間みられる著者独自の鋭いフーコー/統治性解釈は、哲学・思想の枠にとらわれない「新たなフーコー」との出会いを読む者にもたらしてくれるに違いない。
著者のウォルターズ氏は、カナダのカールトン大学教授(政治学・社会学)。移民や国境といったセキュリティをめぐる問いに一貫して関心を抱き、近年はテロ対策でのドローン利用をテーマにしたプロジェクトに関わるなど、現代社会が直面する具体的な課題に精力的に取り組んでいる。
(阿部潔)