翻訳
最後のユダヤ人
未来社
2016年10月
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ジャック・デリダはフランスのアルジェリア系ユダヤ人思想家だ──よくそう言われるけれど、彼はどういう意味で「ユダヤ人」であったのか。そもそも、誰が「本来的」に「ユダヤ人」たりえるのか。本書は、一九九八年に第三七回フランス語圏ユダヤ人知識人会議においてなされた講演「告白する──不可能なものを」と、二〇〇〇年に国際シンポジウム「ユダヤ性──ジャック・デリダへの問い」においてなされた講演「アブラハム、他者」の二つからなる。いずれも晩年のデリダが、「ユダヤ人」としての自らの体験、自らの「ユダヤ性」について「告白」し、あたかもそこへと「回帰」するかのようにして、「ユダヤ人たる私」とは誰かという問いに正面から取り組んだものである。前者の講演では、イスラエルとパレスチナはもとより、私と他者、異邦人、死者、未来、動物、機械等々、さまざまな「隣人」と「共に生きる」ことの「アポリア」が入念に論じられる。後者では、カフカのアブラハム論にはじまり、サルトルの『ユダヤ人』の脱構築的読解をへて、「最後のユダヤ人」という形象が浮き彫りになる。「赦し」、「和解」、「責任」、「歓待」、「死」、「動物」といった、九〇年代以降にデリダが展開していた問題系に「ユダヤ」という角度から切り込む。
(渡名喜庸哲)