新刊紹介 単著 『ジョルダーノ・ブルーノの哲学 生の多様性へ』

岡本源太
『ジョルダーノ・ブルーノの哲学 生の多様性へ』
月曜社、2012年3月

最近年の研究の成果を十分に吸収し、また一次文献を博捜して、神学から倫理学、芸術論に至るブルーノ思想の多面的なありようを浮き彫りにした一冊。人間と動物、また精神と身体、理性と感情、あるいは快楽と苦痛——思想史を貫く双数的な概念のさまざまな組み合わせ、ブルーノはそれらを詭弁と危うく踵を接する論理の綾とともに、しかしたしかな実質をともなう根本的な再審につぎつぎと付してゆく。そうして開かれるのは、「協和」と「不協和」のもつれる中間性の場所である、とひとまず言えそうだけれど、著者はただその場所のありかを示して事足れりとするのでなく、それが開かれてゆく様態の無数性を、語の本来の意味での弁証法的な感覚とともに濃やかに、かつ鮮やかに描き出す。「位置づけがたさ」を言われてきた哲学者を無理に位置づけ直すのではなく、位置づけがたさの印象の所以を真摯に問うた本はまた、ブルーノによるラディカルな再解釈を分光器とながら、思想史を彩るさまざまなトポスについて多くを教える本でもあって、一巻を閉じる読者は、副題に置かれた「多様性」の語が、漠然と信じられているよりはるかに「多様」な意味合いを持ち得ることを思い知らされるにちがいない。ジョイスによる関連論攷二篇の翻訳・詳解を付す。(森元庸介)