2024年11月23日(土・祝)
10:00-12:00

  • 極地という宇宙──アレクサンドル・シプコフによる集合住宅《ポリャール(Поляр)》計画の分析/本田晃子(岡山大学)
  • 建築家のソヴィエト旅行記──1930年代の日記資料から見るアメリカの建築家によるソ連表象について/印牧岳彦(神奈川大学)
  • Space out of Joint: Cognitive Mapping and its Affective Aspect/鄧佳致(早稲田大学)

司会:乗松亨平(東京大学)


極地という宇宙──アレクサンドル・シプコフによる集合住宅《ポリャール(Поляр)》計画の分析/本田晃子(岡山大学)

 宇宙計画と団地建設は、フルシチョフ時代のソ連を象徴する二大政策だった。一見して接点のないように見える両者は、しかしロシアの極北の地で交わる。1950年代末より北極圏では資源採掘のための新規の開発計画が次々に発表され、現地の気候を無視したスターリン時代のモニュメンタルな公共建築や粗末な労働者用バラックに代わる、より合理的で経済的な都市の建設が開始された。このような極地開発の波に乗って、若手建築家のアレクサンドル・シプコフとエリザベータ・シプコワ夫妻も世界最北の都市ノリリスクに赴き、一連の独創的な集合住宅《ポリャール(Поляр)》を描き出した。その際アレクサンドルは、極地開発をユーリー・ガガーリンらによる宇宙進出になぞらえ、科学技術による極地の過酷な自然の統御を、ロシア・コスミズムの代表者ウラジーミル・ヴェルナツキーが提唱したノースフェーラ(noosphere)の建設に喩えた。
 アンビルトに終わったこれらシプコフ夫妻の集合住宅計画に関する研究は、『ソ連モダニズムの巨匠たち』シリーズの一環として2021年にエレーナ・ペトゥホワによって刊行されたアレクサンドル・シプコフのモノグラフ以外にはほぼ存在しない。特に彼らのデザインの思想的背景を論じた先行研究は皆無といってよい。したがって本発表では、宇宙開発やロシア・コスミズムの思想が彼らの設計にどのように反映されたのかを、具体的に作品を検証することで明らかにしていく。

建築家のソヴィエト旅行記──1930年代の日記資料から見るアメリカの建築家によるソ連表象について/印牧岳彦(神奈川大学)

 両大戦間期の時期において、ソヴィエト連邦という国家は西洋の近代建築家にとって、両義的な評価の対象として存在していたといえる。すなわち一方において、世界初の社会主義国家として樹立されたソ連は、しばしば左派的傾向を有していた近代建築家たちにとって、プロジェクト実現のための理想的場所としてみられたが、他方において、1930年代半ば以降の社会主義リアリズム路線への転換によって、CIAMをはじめとするモダニズムの立場から批判の的ともなった。あるいはまた、こうしたソ連の建築界に対するヨーロッパの建築家による実際の関与についても、現地でプロジェクト実施したル・コルビュジエや、移住しての活動を行なったエルンスト・マイやハンネス・マイヤーの事例など、さまざまに知られている。その一方で、第一次世界大戦後の時期にソ連と同様国力を増強し、二大国家となりつつあったアメリカ合衆国の建築家とソ連との関係については、(アルバート・カーンによる早い時期の事例などを除いて)これまで十分に検討されていないように思われる。そこで本発表では、1930年代にソ連へと実際に渡航したニューヨークの建築家サイモン・ブライネスの日記資料に着目し、同資料の検討を通して、戦間期におけるアメリカの建築家によるソ連観の一端を明らかにするとともに、両国のあいだの文化的干渉の実態を理解するための一助とする。

Space out of Joint: Cognitive Mapping and its Affective Aspect/鄧佳致(早稲田大学)

  In this presentation, I will illustrate the development of the concept of cognitive mapping, trace its origin and extract the potential from it in relation to postmodern spatiality and a corresponding need for new forms of subjectivity. I will emphasize the crisis aspect of this theory from the perspective of affect.
  Jameson’s concept of cognitive mapping has been one of the most influential concepts in the literary and cultural theory related to the spatial turn and to postmodernism. As something of a synthesis between Althusser’s theories of ideology and Kevin Lynch’s urban studies, cognitive mapping responds to and seeks to move beyond alienation and fragmentation produced by global capitalism and postmodern culture. Robert Tally extends the argument of cognitive mapping to a more general discussion of spaces and literature, particularly from the perspective of the reader or the critic who must make sense of the literary maps. Jonathan Flatley coined the term affective mapping, to indicate the affective aspects of the maps that guide us, in conjunction with our cognitive maps, through our spatial environment. My presentation will also be based on this attention to the affective aspect of the cognitive map and reinterpret Jameson's interpretation of the Bonaventure Hotel.