2022年11月12日(土)
午前13:30-15:30
- 明治幻燈からみる近江日野商人の着眼点──三陸海岸大津波の表象を中心に/福島可奈子(早稲田大学/日本学術振興会)
- 二次創作における物語の法則──テクストの生成をめぐる定型性と不定型性に着目して/石川優(大阪公立大学)
- Amateurism and Professionalism in Sports as Reflected in Japanese Cartoon Animation/Joachim Alt(National Museum of Japanese History)
司会:松谷容作(追手門学院大学)
明治幻燈からみる近江日野商人の着眼点──三陸海岸大津波の表象を中心に/福島可奈子(早稲田大学/日本学術振興会)
本発表は、明治期に近江日野商人が用いた幻燈スライドの内容から、彼らが当時最新のメディアの幻燈に見たものとは何かに注目して分析する。江戸初期から続く近江商人が、最新のメディアで高額な幻燈を仲間同士で購入活用していたことは、今まで知られていなかった。昨年12月、江戸末期から明治中期頃に近江の豪商、正野家と鈴木家が購入した幻燈スライド104枚が発見された。江戸期の手描きや仕掛け種板、明治期の合羽刷りや写真転写のスライド(明治三陸大津波、見真大師、日清戦争風刺画、第五回内国勧業博覧会など)が含まれるが、特に、観測史上最大の大津波によって甚大な被害を被った明治三陸大津波のスライドを中心に、近江日野商人の着眼点を明らかにする。明治29年の三陸大津波は、写真が湿板から乾板に簡易化されたことで多数の幻燈師(鶴淵初蔵、池田都楽ら)が被災地入りして写真撮影し、それをもとに幻燈会が義援金目的でしばしば開催された。一方日野商人は各地にネットワークを有し、大被害を受けた宮城県とも商売上の縁が深く、また浄土真宗信者が多く、社会に貢献すれば自らに還元されるという報徳思想でも知られる。そこで本発表では、近江商人の経済観・宗教観を踏まえ、彼ら独自の幻燈メディアとの関わり方を具体的にみていく。
二次創作における物語の法則──テクストの生成をめぐる定型性と不定型性に着目して/石川優(大阪公立大学)
本報告は、二次創作の主流形態の一つである同人誌に着目し、その物語テクストがどのように生成されるのかを事例に基づいて分析するものである。本報告における二次創作とは、マンガやアニメーション、ゲーム、ドラマ、小説、舞台、歴史、芸能、スポーツなど(以下「原作」と総称)を引用した表現を意味する。
先行研究は、社会学、文化人類学、情報学などを主なディシプリンとして、二次創作に関わる「人々」に焦点を当ててきた。それに対して、本報告は二次創作という「表現」それ自体をとりあげる。二次創作は、著作権などの問題からテクスト分析の難しさがしばしば指摘されるが、二次創作が原作の受容と生成をめぐる間テクスト的な文化実践である以上、その表現に目を向けることは現代文化の機構の一端を理解する上で重要である。
そこで本報告では、『週刊少年ジャンプ』(集英社)の掲載作品を原作とする二次創作同人誌を事例として、その物語テクストの生成について「定型性」と「不定型性」というキーワードから分析をおこなう。ここでいう定型性とは、原作に対する「解釈」、その解釈に基づく表現の「技法」、その技法に基づいて描かれる「物語内容」における一定の型を指す。『週刊少年ジャンプ』は二次創作の原作を提供する重要なメディアであるが、本報告は特に2000年代以降の事例を分析することで、二次創作の生成過程に定型性と不定型性という両義的側面を見出していく。分析をつうじて二次創作という創作の機構と機能について考察することを、報告の狙いとする。
Amateurism and Professionalism in Sports as Reflected in Japanese Cartoon Animation/Joachim Alt(National Museum of Japanese History)
In post-war Japan sports strongly reflected ideals from the pre-war and war periods. Medial representation of sports too incorporated these values, such as functioning as a closed community, and willpower. These are elements of the so-called Konjō-ron, which inadvertently implies amateurism on the side of its practitioners for inherently denying technical or athletic superiority. Accordingly, sports in Japan have long been seen as an amateurish pastime, at best a tool for shaping individuals into conform members of society. The Japanese women’s Volleyball team, nicknamed Witches of the Orient, validated this ideology with their gold-winning performance at the 1964 Tokyo Olympics, sparking a wave of sports enthusiasm that included the iconic manga / anime series Atakku No. 1. Yet, since the 1990s, sports in Japan have developed towards a professionalized image. This presentation introduces various aspects of a developing research project on the change of the depiction of sports from amateurism to individualistic professionalism in anime, assuming that a change in sports culture would be reflected in entertainment media. This project uses visual signifiers and other elements to read and compare especially Atakku No. 1 and its contemporary counterpart Haikyū! in their social and medial contexts following / preceding Tokyo Olympics.