日時:2017年7月1日(土)16:00-18:00
場所:前橋市中央公民館5階503学習室
パネル概要
・映像と他者理解──アイヌ民族を例に/亀田裕子(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院)
・プラットフォームとアトラクション・マネジメント──ユーザーの視点・視線管理/難波阿丹(聖徳大学)
・日本と韓国の大学でのグローバル教育の現状──ニューメディア利用を中心に/李ウォンギョン(上智大学)
【コメンテーター】米山かおる(首都大学東京)
【司会】李ウォンギョン(上智大学)
本パネルでは、ニューメディアを導入した国際コミュニケーションの動態について考察する。近年、異文化理解やグローバル教育の一環として、インタラクティブなメディアが経済活動、教育現場等に紹介されつつある。しかし、このようなニューメディアが、それに関わる人々の生活環境、学習環境にもたらす影響力を測定する基準が定まっているとは言い難い。本パネルでは、実際にニューメディアとしてのeラーニング・プラットフォームや学習支援ツールの運営・活用に携わった三名の研究者が登壇し、ニューメディアがコミュニケーションをいかにしてデザインし、他者表象・経済・学習環境を管理するのかを検討する。
第一の発表者である亀田裕子は、自身の専攻である日本学や他者表象研究に基づき、マイノリティ表象に注目し、ニューメディア期以降のマジョリティ/マイノリティの関係性の変化を論じる。第二の発表者である難波阿丹は、プラットフォームとユーザーのアトラクション・マネジメントを軸に、スマートフォンでの購買行動について検証する。第三の発表者である李ウォンギョンは、ニューメディアが普及した後、日本と韓国の大学でのグローバル教育がどのように変化したかについて比較分析する。以上の三視点を導入することで、異文化間コンピテンシー向上に寄与するツールとしてニューメディアの活用事例を具体的に検討する。
映像と他者理解─アイヌ民族を例に
亀田裕子(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院)
近年、国際社会において活躍しうるグローバル人材を育てるための教育が重要になっている。本発表では、ともするとその視線を国外へ向けがちなグローバル教育において、あえて日本国内に研究の焦点を向ける。内なる国際化が進む現代の日本社会において、日常生活の中で、メディアを通して異文化に触れる機会は多い。テレビ・広告・雑誌・駅構内や公共サービスにおける他言語での案内など、様々な情報媒体で我々は内なる国際化の中で生活している。本研究では、マイノリティ表象の考察を通した異文化理解について論じる。真の意味での異文化理解とは果たして何なのか?異文化理解とは理解する側の自己理解と密接に関わっていると考察する。グローバル教育の重要な一端を担う異文化理解という課題について、国内におけるアイヌ民族をケーススタディとして取り上げ、我々(日本人と仮定する)が如何にして他民族であるアイヌ民族についてメディアを媒介として発信・受信してきたか、またそのマジョリティ/マイノリティの関係性がニューメディアの登場とともに如何なる変移を遂げつつあるかについて議論していく。アイヌ民族が最初に映像の中に見られるのは「明治の日本」(1898, Lumière)である。それ以降、アイヌはドキュメンタリーに幾度となく取り上げられている。そしてこれらの映像はほぼ海外メディアやマジョリティである日本人が製作したものである。加えて、日本映画にもアイヌ民族は登場するが、その数は決して多くはない。本発表では、教育現場において自己・他者理解を促進するツールとして、日本映画におけるアイヌ民族表象を多角的な側面から考察していく。
プラットフォームとアトラクション・マネジメント─ユーザーの視点・視線管理
難波阿丹(聖徳大学)
本報告では、オンライン・プラットフォームの設計とユーザーの視線管理に注目する。近年、インターネットに接続するツールとしてスマートフォンが大幅に普及している。ニューメディアの市場導入に伴い、スマートフォンの技術的支持体に適した動画、ポップアップ広告・プラットフォームの設計が行われており、インターネット上での集客やユーザーの購買行動への誘導が模索されている。本発表では、デジタル・メディア環境をふまえ、潜在的な顧客層の視線管理に、プラットフォーム・動画・広告の多層化する画面設計がいかにしてオーガナイズされているのかを検討する。このようなアトラクション・マネジメントの起源は、初期・古典映画環境に求められると言えるだろう。映像が露出趣味的であり、講釈や観客との相互性など興行的要素を加味され、多次元的に営まれていた初期映画上映は、古典映画期において物語水準、配給システムに徹底的な管理システムが浸透し、観客の身体・視線の制度化も企図されていった。本発表では、初期・古典映画期において観客の注視を管理すべく考案された映像設計の分析枠組みに基づいて、センセーショナルなイベントがモバイルメディア上で立ち上げられていくプロセスの一端を明らかにすることを目指す。以上のような試みによって、スマートフォンというニューメディアにおいて、ユーザーのアトラクション・マネジメントと、購買行動を促進させるインフラストラクチヤーの設計を議題とする。
日本と韓国の大学でのグローバル教育の現状─ニューメディア利用を中心に
李ウォンギョン(上智大学)
本報告では、ニューメディアが普及した後、日本と韓国のグローバル教育がどのように変化したかについて、大学教育を中心に比較分析する。
両国の大学でのグローバル教育は、2000年代以前までは英語を中心とした外国語能力を習得することが中心だったが、近年では多文化共生社会に目を向けた教育へ移行する過程である。このような軌跡は、大学教育でニューメディアが導入されたことと類似している。教育現場では2000年代から遠隔授業やeラーニングなどでニューメディアが積極的に導入され始めており、メディア上でのインタラクションを通じて国境や言語の壁を越え、学生相互のコミュニケーション能力や異文化理解の促進に繋がることが期待されていた。
しかし、実際にグローバル教育、特にニューメディアを用いたグローバル教育に参加した学生が他文化と相互作用ができていたか、多文化に対する理解が促進できたかは明らかになっていない。そして、本報告は日本と韓国のグローバル教育の実態を比較しながら、大学生が国際的な諸問題に向き合い、その解決に向けて地域レベル及び国際レベルで積極的な役割を担うようになったか、平和・安全で持続可能な世界の構築に率先して貢献できる認識を持っているかを測定することも目指す。