新刊紹介

友常勉ほか(訳)
李子雲ほか『チャイナ・ガールの1世紀——女性たちの写真が語るもうひとつの中国史』
三元社、2009年07月

本書は清朝末期から現代中国までの中国女性の形象の変化を、雑誌『良友』をはじめとした画報の彩色画から、女優たちのブロマイド写真、そして個人蔵の私的な写真まで、700点あまりのイメージ資料を収集してあとづけている。西洋との接触がもたらしたモダンガールというイメージの、誕生から変遷までを再現しようとした試みである。収録された資料の性格はまちまちだが、その編集の仕方もけっして一貫性はない。雑誌の切り抜きやブロマイド写真のとなりに、私的なショットとして撮られた母や友人たちの素顔がはりつけられている家庭のアルバムのようなものだ。本書の前提として、中国“時代女性”たちが、近代化・西洋化の夢とはうらはらに直面せざるをえなかった運命、すなわち、中国社会における、「家を出ていくノラ」と、「家に帰っていくノラ」という“二人のノラ”の相克については知っておくべきである。毛沢東をめぐる女性たちはもちろん、中国近現代史を彩る政治・文学・文化のスターたちの写真がそこにある。彼女たちのさまざまな闘いや抵抗については触れられない。しかし、「生産」と「家庭の民主和睦」を女性工作の軸にした、1950年代中国が有していた「女性解放の神話」がどう崩壊したかは示唆されている。本書の問題意識は、そうしたポスト「社会主義の神話」の時代に、定義され意味付与されたりする女性主体ではなく、女性たちの物語をそのままの形で伝えることは、いかに可能かということにあっただろう。その試みとして、筆者たちはさまざまなイメージの収集という方法を選んだのだと理解できよう。そしていまや、 “二人のノラ”のあいだにはグローバル資本が介在している。そうしたグローバル資本下での中国女性というテーマは、本書では今後の課題としてもちこされていると考えるが。なお、本書には多くの服飾関係の専門用語も参照されている。そうしたガイドブックとしても活用していただければありがたい。(友常勉)