新刊紹介 単著 『第一次世界大戦を考える』

石田美紀、田中祐理子、ほか(分担執筆)
藤原辰史(編著)
『第一次世界大戦を考える』
共和国、2016年5月

20世紀は戦争の世紀であった。前世紀を評する際に繰り返されてきたこの文言の根拠のひとつが、1914年に勃発し1918年に終結した第一次世界大戦にある。周知のとおり、人類史上初の総力戦となった第一次世界大戦は、政治経済のみならず、人間の活動のあらゆる領域において大きな影響を与えた。しかしそれゆえに、この戦争を研究しようとするときには困難に直面する。というのは、その全容を明らかにしようとしても、ある特定の学問領域だけでは到底不可能であるからだ。

巨大であるからこそ避けて通ることができない第一次世界大戦に迫るために、「第一次世界大戦の総合的研究」が京都大学人文科学研究所において2007年から開始された。同研究には、歴史、政治、経済、思想、文学、芸術等の多様な領域から多くの研究者が参加し、活発な議論が行われた。2015年に終了した同研究の成果としては、山室信一他編『現代の起点 第一次世界大戦』(岩波書店、全4巻、2014年)や、人文書院から刊行中の「レクチャー第一次世界大戦を考える」があるのだが、参加者たちが各自の専門領域から第一次世界大戦について自由に綴ったエッセイを収めた本書も、重要な成果のひとつである。  

三部からなる本書で取り上げられる話題は実に多岐にわたる。第一部「大戦を考えるための12のキーワード」では民族自決、国際社会、徴兵制といった現代社会の基盤をなす項目が取り上げられ、また第二部「大戦の波紋」ではヨーロッパにおける芸術思潮からヨーロッパ外の政治運動までが俎上にのせられる。そして、第三部「いま、大戦をどうとらえるか」では開戦100年を迎えた2014年における実感が率直に著されている。  

エッセイという形式のため、どこからでも気軽に読むことができる。だが侮る事なかれ。短いからこそ、そこには各研究のエッセンスが凝縮されている。また意外な固有名に出会い、第一次世界大戦の異なる側面を知ることにもなるだろう。各地で戦闘が継続され、毎週のようにテロが起っている現在にこそ、手に取ってもらいたい。戦争とはなにか、社会となにか、文化とはなにか、そして人間とはなにかを考える手がかりが、きっと見つかるはずである。(石田美紀)

石田美紀、田中祐理子、ほか(分担執筆)藤原辰史(編著)『第一次世界大戦を考える』共和国、2016年5月