新刊紹介 編著/共著 『デジタル・スタディーズ 第3巻 メディア都市』

大久保遼、田中純(ほか分担執筆)
石田英敬、吉見俊哉、マイク・フェザーストーン(編)
『デジタル・スタディーズ 第3巻 メディア都市』
東京大学出版局、2015年10月

本書は、デジタル・メディアによる人文知の再編とその新たな展望を模索する『デジタル・スタディーズ』のシリーズ最終巻である。活字を中心とする知識の体系、およびそれを基盤とするシステムが「デジタル転回」しつつあるなかで、既存の哲学や表象分析、メディアやイメージの理論はどのように再編されようとしているのか――それを問うたのが前2巻だったとすれば、本書は都市論・空間論、そして都市や生活の場を舞台とする社会実践の変容、ポストメディア論の政治的含意やその社会学的展開が分析の俎上に載せられる。

メディアが遍在する都市空間においては、絶えず外部の空間や時間がネットワークを通じて現在に嵌入する一方、それは容易に内閉的な監視や制御のための包囲網にも転化しうる。その機能はしばしばその瞬間ごとに反転可能であり、一義的に決定することなどできない。このような状況下で、従来の創造や批判、政治や批評といった概念・実践もまた問い直されつつある。読者は本巻の各論稿から遡って、「メディア哲学」「メディア表象」の議論を再考することができるだろう。

なお本シリーズのもとになったシンポジウム「ユビキタス・メディア:アジアからのパラダイム創成(UMAT)」では、レム・コールハース氏と浅田彰氏による基調講演「アブストラクト・スペース:新しいアジア」が予定されていた。残念ながらこの企画は実現しなかったのだが、もし実現していたとすれば、本シリーズには両氏の建築・都市論が掲載されていたかもしれない。おそらくそれは本書やUMATの文脈と、ANY会議や『建築の際』の文脈を交錯させるものとなったはずだ。不在の論考を手掛かりに、本書をより多様な議論へと接続していくこともまた可能であるだろう。(大久保遼)

大久保遼、田中純(ほか分担執筆)石田英敬、吉見俊哉、マイク・フェザーストーン(編)『デジタル・スタディーズ 第3巻 メディア都市』東京大学出版局、2015年10月