新刊紹介 編著/共著 乳房文化研究会(編)『乳房の文化論』

深井晃子(分担執筆)
乳房文化研究会(編)『乳房の文化論』
淡交社、2014年11月

乳房、おっぱい、ちち、バスト、胸。女性の柔らかな二つの塊に、誰が、どう、眼差すかで、その名は変幻自在に変容し、先のような様々な呼び名で呼ばれることとなる。それを研究対象とするときも、実態への科学的アプローチをおこなうか、表象するものとして捉えるかで、大きく異なった様相を呈してくる。奥行きが深く、広がりを持つ、この「不思議の塊」を、乳房文化研究会は、20年近くにわたり研究の対象とした。

乳房文化研究会は、からだ文化研究会(1991年設立)と、乳房科学研究会(1993年設立)が統合し、様々な角度、視点から乳房に関心を持つ者たちが集うユニークな研究会として1996年に発足した。集うのは、医学、生物学、心理学、社会科学、考古学、民俗学、文化人類学、文学、美術、流行、マンガ論、ファッション、そして下着産業・・・・等々、広範な分野からの専門家たちである。となれば、そこで展開するのは、多様な専門領域、広範な地域への広がりはもとより、扱われる時間もまた、先史時代から現在までと長いスパンにわたる、深く活発な議論である。

乳房文化研究会は発足以来、年3回のペースで研究会を行なってきた。そこで毎回発表された研究は百本以上に及んだ。その広範な講演録の中から、本書は、乳房に関わる<文化的視点>からの講演が12本精選され、新たに加筆修正され、論考集としてまとめられた。執筆者の顔ぶれは、北山晴一、上野千鶴子、武田雅哉、鎌田東二、塚田良道、肥塚隆、山口恵理子、高階絵里加、表智之、蔵琢也、深井晃子、米澤泉(掲載順)。

乳房は、「不思議の塊」といった。だが、それが母性と女性性を表象する点は明白であり、普遍性を持つ。また、それが、ゆたかさ、いのち、よろこび、をもたらすもの、という点でも、それほど多くの異論はないだろう。面倒なのは、母性と女性性が往々にして交錯する点である。

乳房を通して、社会や文化、歴史、生活の質などを浮かび上がらせる論文は、それぞれに興味深い。それ以上に、書き手が、母性派かセクシュアリティ派か、乳房についてどちらの立ち居地をとっているかを、書いたものから滲み出させている、あるいは率直に吐露している点も面白い。

セクシュアリティ派、上野千鶴子の乳房論はストレートで躊躇がない。一方、中立的というか、そのどちらにも距離を置く、たとえば私が書いたものなどは、いささか味気ない。

だが、バストが女性の身体部位のなかで可塑的であればこそ、母性か女性性かのどちらに傾くかを、つまり時代と社会の揺らぎを、明快にかくも視覚的に表象する記号として、それを使えるのは、ファッション以外にはありえない。

饒舌に多くを語る乳房だが、風俗的側面からの論考は取り上げられていないので、その向きからの期待は裏切られよう。(深井晃子)

深井晃子(分担執筆)乳房文化研究会(編)『乳房の文化論』