新刊紹介 単著 『映像のアルケオロジー 視覚理論・光学メディア・映像文化』

大久保遼(著)
『映像のアルケオロジー 視覚理論・光学メディア・映像文化』
青弓社、2015年2月

本書は、19世紀末から20世紀初頭の日本における多様な映像メディア──マジックランタン、写し絵、幻燈、連鎖劇、キネオラマ──に照準し、同時代の光学的・生理学的視覚理論や感覚理論との交錯的、相即的な関わりの中で営まれた多様な映像実践──教育的、報道的、娯楽的──を掘り起こしていく。と、このように書くと、本書が晦渋な映像理論書であるといった印象を与えてしまうかもしれないが、実際はそうではない。世紀転換期の映像文化の諸相が実証的かつ理論的に考察されていく一方で、そこに描き出されていく観衆/聴衆のヴァナキュラーな身体性の有り様は、光学機器が投影する映像を前にした当時の人々の感覚を追体験しているような楽しさを読者にもたらしてくれもするのである。

このようにして本書は「映像の幼年期」の豊穣さを軽やかに描き出していくのだが、しかし、筆者は多くの人が期待するであろう、キネトスコープやシネマトグラフについての言及を「それはまた別の話」と周到に避けている。本書が積極的に言及するのは、映画というメディアから逸脱するような複合的で多層的な映像投影装置とそれをめぐる諸実践である。そこから掘り起こされていく〈映像・空間・身体〉が形作る流動的な布置は、映画へと収斂し固定化していくことで忘却されてしまった、かつての映像文化が有していた豊穣な可能性を現代の私達に教えてくれるのである。それは、映画や写真といった単一メディアに還元することのできない現代の映像文化に対峙していくための良き導き手となっていくだろう。(林田新)

大久保遼(著)『映像のアルケオロジー 視覚理論・光学メディア・映像文化』