新刊紹介 翻訳 『聖なるものの刻印 科学的合理性はなぜ盲目か』

森元庸介(共訳)
ジャン=ピエール・デュピュイ(著)
『聖なるものの刻印 科学的合理性はなぜ盲目か』
以文社、2014年1月

近年はとりわけ独特の破局論で知られるフランスの思想家ジャン=ピエール・デュピュイが、自身の知的径程を振り返りつつ「アポカリプスを間近に」控えた人類が直面する知的=実践的な課題を論じた総括的な書物。先端技術から儀礼、民主制、社会正義を経て、核抑止に至る多様な領域を対象に、工学的コントロールの貫徹へ向かうさまざまな趨勢のもたらす破滅的効果(逆生産性)を明らかにしつつ、返す刀で、システムに対する脅威と思い為されながら、しかしその存続と運行を根底において保証する不可欠の外部としての偶然性の意議を説く。タイトルに「聖なるもの」を掲げて(ジラール、またイリッチを介した)キリスト教への「認識論的」な負債を表明する率直さ、分析の対象のいずれについても賞賛や批判に一方的に流れることなく正負の両側面を考慮する公正さは、今日の知的風土のなかで際立った美質といってよいだろう。また、ヒッチコック『めまい』の分析に捧げられた終章は、本書のもうひとつの主題に愛と「個」性の関係があったことを確認させつつ、一巻の全体に螺旋運動を与え直して深い余韻を残す。(森元庸介)

森元庸介(共訳)ジャン=ピエール・デュピュイ(著)『聖なるものの刻印 科学的合理性はなぜ盲目か』