新刊紹介 翻訳 『メロドラマ映画を学ぶ ジャンル・スタイル・感性』

中村秀之(共訳)
ジョン・マーサー、マーティン・シングラー(著)
『メロドラマ映画を学ぶ ジャンル・スタイル・感性』
フィルムアート社、2013年12月

本書はメロドラマ映画研究の入門書 Melodrama: Genre, Style, and Sensibility (Columbia University Press, 2004)の全訳である。これまで日本では、T・エルセサー、L・マルヴィ、P・ブルックスといった代表的な論者のメロドラマ論が翻訳、紹介され、いずれも貴重な仕事であるが、C・グレッドヒル、B・クリンガー、L・ウィリアムズ、あるいはR・アルトマンやS・ニールなど他の主要な研究者も含めた研究史全体の概観を与えてくれる1冊の本は存在しなかった。「メロドラマ映画」という複雑な対象の理解には、コンテクストを踏まえた、いわば概念史的アプローチが不可欠である。その点、1970年代以降のフィルム・スタディーズにおけるメロドラマ研究の展開をダイナミックにかつコンパクトに叙述した本書はすこぶる有用である。

学部向けの教科書として使いやすくするため原著にはない用語解説を付すなどの工夫を施したが、御園生涼子氏の著作を始め日本映画のメロドラマ研究に新たな地平が切り拓かれつつある現在、本訳書が教育の場で活用されるだけでなく、研究のさらなる活性化にとってもささやかな契機となるならばこの上ない喜びである。なお、共訳者でメロドラマ映画研究者の河野真理江による訳者解説を巻末に付した。東アジアやラテンアメリカも視野に入れて最新の研究動向を概観し、メロドラマ映画の超域性をめぐる新たな視点を提示している。(中村秀之)

中村秀之(共訳)ジョン・マーサー、マーティン・シングラー(著)『メロドラマ映画を学ぶ ジャンル・スタイル・感性』