新刊紹介 単著 『切断する美学 アヴァンギャルド芸術思想史』

塚原史
『切断する美学 アヴァンギャルド芸術思想史』
論創社、2013年2月

本書は、「切断」のコンセプトを手掛かりにしながら、多岐にわたる20世紀芸術と同時代の思想を考察する試みである。ここでの「切断」は、「過去との切断」および「意味との切断」という二つの側面を持つ。前者は伝統や因習を打破して新しいものを目指す芸術家の態度を示し、後者はシニフィアンとシニフィエの結びつきがもはや自明ではないという問題意識をさす。未来派、ダダイズム、シュルレアリスムといった20世紀初頭のアヴァンギャルドはまさにこの二種類の「切断」を実践し、アヴァンギャルド研究の大家である著者は数多くの研究でその革新性を明るみに出してきた。

しかし本書では、「切断の意識」はアヴァンギャルドにとどまらず、20世紀芸術全般の土台をなすという発想が新たに打ち出されている。その具体例として取り上げられるのが、1930年代のパリでシュルレアリストと交流を持った岡本太郎と、主体の問題を科学的に探求した荒川修作であり、さらには夏目漱石と永井荷風までもが同時代の思想との関係という観点から俎上に載せられる。アヴァンギャルドについての考察であると同時に、アヴァンギャルド的な観点からの考察であるこれらの論考は、かつてない岡本太郎像や永井荷風像を浮かび上がらせる。

本書は『反逆する美学 アヴァンギャルド芸術論』と近刊予定の『模索する美学 アヴァンギャルド社会思想史』とともに、アヴァンギャルド芸術研究三部作を構成するという。アヴァンギャルドを通した20世紀芸術のパースペクティヴが期待される。(河村彩)