新刊紹介 編著、翻訳など 『ムネモシュネ・アトラス(ヴァールブルク著作集別巻1)』

アビ・ヴァールブルク(著)
『ムネモシュネ・アトラス(ヴァールブルク著作集別巻1)』
田中純(共同執筆)
ありな書房、2012年3月

文化史家アビ・ヴァールブルクは晩年、黒い布を張った等身大のパネル上に美術作品などの図版をピンで留め、その配置によってヨーロッパ数千年に及ぶイメージの歴史を考察した。1929年に彼が亡くなった時点でパネルの総数は63枚、図版数は千点近くに上っている。『ムネモシュネ・アトラス』とはこのプロジェクトに与えられた名である。

本書はこの最終ヴァージョンの『ムネモシュネ・アトラス』を構成する各パネルについて、個々の図像に関する情報ばかりではなく、それらの図像の配置関係を読み解いた詳細な説明を加え、参考図版によってイメージのネットワークをよりいっそう拡大し深めた解説書である。『ムネモシュネ・アトラス』全体にわたるこのような解説は、ドイツ語版のヴァールブルク著作集でもいまだ試みられておらず、図版情報についても同著作集の内容が本書では全面的に更新されている。さらに本書は日本語版オリジナルの解題2種類と詳細な人名・事項索引を備え、日本の読者をヴァールブルクの壮大な知的宇宙へと誘い導く、それ自体が「アトラス(地図帳)」に似た書物であると言えよう。ここではいわば、イメージ記憶の星座群を通じて、ヨーロッパ文化の見てきた長い夢が占われるのである。(田中純)