新刊紹介 単著 『戦後部落解放運動史 永続革命の行方』

友常勉
『戦後部落解放運動史 永続革命の行方』
河出書房新社、2012年4月

一筋縄ではいかない一冊である。本書がいたずらに難解を気取っているからではない。むしろ議論は明解なのだが、それゆえかえって、本書を繙く者は扱われている問題そのものの錯綜ぶりに対峙せざるをえなくなるからである。

標題からもっぱら社会論的な書物を予想する向きもあろうが、たとえば第四章では、阿波木偶箱廻しという伝統芸能を手がかりに差別史と芸能史の関連が論じられるなど、文化論的側面も併せ持っている点は、著者の前著『脱構成的叛乱』に続いて本書でもひとつの特徴となっている。

全五章と終章から成る本書では、1970-80年代を中心とした、部落差別問題に関連するいくつかのトピックに焦点を当て、その概要と論点をまとめながら、著者の見解を明らかにしていくという体裁をとっている(つまり通史ではない)。文献の渉猟はむろんのこと、著者自身のフィールドワークやインタヴューの成果も盛り込んで、豊富な情報量を含みながら展開する検証と、著者最初の単行本である本居宣長論『始原と反復』でも発揮されていた高度な理論的考察とが、まるで応酬しあうかのように進んでいく本書の筆致からは、現代日本社会に滞留するひとつの難問を実践と理論の両面から思考しつくさんとする著者の強靱な問題意識を感じとらずにおれない。

選書という紙幅が少々窮屈に感じられるほどに濃密なこの書が、専門家のみならず、広く一般の人びとに多く読まれるようであるとよい、そう率直に思う。(三河隆之)