新刊紹介 単著 『証言 日中映画人交流』

劉文兵著『証言 日中映画人交流』
集英社新書、2011年4月

本書は、著者の前著である『中国10億人の日本映画熱愛史─高倉健、山口百恵からキムタク、アニメまで』(集英社新書、2006)の姉妹編として構想されている。戦前から現在に至る中国側の日本映画の受容史にスポットライトを当てた前著に対し、本書では作る側=日本側の証言から日中映画交流の実態に迫ろうとしている。前著で取り上げられた主な作品に関わった人々、すなわち、『君よ憤怒の河を渡れ』を手がけた佐藤純彌監督、主演の高倉健、『愛と死』のシナリオを執筆した山田太一、主演の栗原小巻、そして『男はつらいよ』シリーズの山田洋次監督らにインタヴューを敢行し、単なる映画製作秘話にとどまらない実体験が披瀝されることで、戦時中から現代に至る両国の歴史を浮かび上がらせている。さらに、木下恵介監督の関係者の証言を集め、木下監督の作品に通底する戦争体験とそれに対する葛藤を描いている。総じて、著者の綿密な取材に基づいた質問により、当事者が思いもよらなかった関係性や視点が生まれ、本書の証言の資料的価値が高まっている。(斉藤尚大)