新刊紹介 | 単著 | 『ジョルジョ・モランディ――人と芸術』 |
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岡田温司『ジョルジョ・モランディ――人と芸術』
平凡社新書、2011年3月
2011年春に開催が予定されていた国内で三回目にあたるモランディの展覧会が、未曾有の震災の影響で「延期」になったのは、ちょうど本書が刊行される直前のことであった。壜や水差しといった限られたモチーフからなる、ささやかな静物画の制作に一生をかたむけた画家、ジョルジョ・モランディ〔1890-1964〕。日本では知名度の高いとはいえないこのイタリア画家の芸術を、著者は、あえて20世紀アヴァンギャルドの名だたる主人公たち(ピカソ、デュシャン)に対比させながら、その古めかしい作品に宿る秘密を7つの観点から解明していく。
同著者は、すでにモランディのモノグラフとして『モランディとその時代』(2003年、人文書院、吉田秀和賞受賞)を上梓しているが、本書ではこの特異な画家の芸術の魅力が、よりコンパクトかつ明快に、そして同様の深い愛情を持って語られている。
入門書とはいえ、本書はモランディの芸術と人生を伝記的に辿るものではない。単純な形態・モチーフの「反復」に、類似とは異なる「相似(シミリチュード)」————フーコーがマグリットの絵画に見出したもの————の契機を見、ルネサンスやバロックの画家たちからの影響に、ポストモダン的な過去の引用とは異なる、「過去の救済」という方法を認める。また他方で、画家が使用した壜や壺に積もる埃への注目は、近著『半透明の美学』(2010年、岩波書店)における半透明のヴェールとしての埃をめぐる議論を踏まえたものである。その意味で本書は、モランディの慎ましやかな作品を、徹底してアクチュアルなものとして読み直そうとする意図に貫かれていると言えるだろう。
本年は本書の他に同著者編の書簡集『ジョルジョ・モランディの手紙』(2011年、みすず書房)も出版され、モランディの作品群が日本にやってくるその日を用意したはずであった。先送りされた機会を待ちつつ、多くの人に読んで欲しい一冊である。(池野絢子)