新刊紹介 編著、翻訳など 『不完全さの醍醐味――クロード・シャブロルとの対話』

大久保清朗(訳)
クロード・シャブロル(著)フランソワ・ゲリフ(著)『不完全さの醍醐味――クロード・シャブロルとの対話』
清流出版、2011年3月

昨年亡くなったクロード・シャブロル監督が自らの映画人生を語ったインタビュー本である。
トリュフォー、ゴダール、ロメール、リヴェットらとともに、「ヌーヴェル・ヴァーグ」を牽引し、やがてブルジョワ社会の「闇」をえぐりだす作風を確立させていったシャブロルの全貌が自身の言葉で語られていく。おそらくトリュフォーが巨匠ヒッチコックからサスペンスの極意を引き出した『映画術』を思い浮かべる方もおられるだろう。だが本書はそれとはずいぶんと趣を異にしている。生い立ちから始まり、監督作について年代順に語られてはいるものの、話題は、映画から離れ、ミステリー談義へ、対独協力者の戦争責任へ、果てはポルノ映画の考察へと留まるところを知らない。

映画という領域を軽々と踏み越えてしまう語り口の奔放さは、『映画術』の純粋さに比すると、一見〈不純〉に映る。だが重要なのは、シャブロルがそうした〈不純さ〉を不要なものとしてしりぞけず、むしろ愉楽とともに享受する人であったということだ。それはまたジャンル映画に徹し続けたシャブロル映画の没個性(むしろ脱個性、超個性というべきか)にも通じ、作品受容を阻む原因ともなっていたといえる。これまでの不遇を、本書がいささかなりとも打破し、シャブロル再発見に寄与することを願ってやまない。(大久保清朗)

補足:
今年はシャブロルの監督作品を見る機会が多い。4月9日より渋谷のイメージフォーラムで『引き裂かれた女』が公開中である。同映画館で初夏に「クロード・シャブロル未公開傑作選」と題して未公開作品3本が上映。また6月から7月にかけて渋谷ユーロスペースおよびシャブロルの特集上映「映画監督とその亡霊たち」が予定されている。